【SS集】1分で読める超短編 ☆ホラーver☆
彼は差し出した手をカウンターに乗せて、苛ついたように忙しなく板を叩いていた。

勿論、その音は聞こえない。


それどころか指先は板を通り抜けて刺さっていた。

舌打ちをしながらキョロキョロと首を動かしているようだ。


おそらく、私の体には気付いていない。


「無いんですか?」

ただの霧なのにギロリと睨まれた気がした。

「あ、あります」



そうは言って私が出したものは、かつてはデパートの洋服売り場に置いてあった男性を象ったマネキン。


「どうぞ」と言う前にその霧はマネキンに取り付くように重なった。

すると、クリーム色の精悍な顔が動き出した。

パチパチと瞬きをしている。


「いかがでしょうか……?」


私は彼が満足して早く帰ってくれることを願った。

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