【SS集】1分で読める超短編 ☆ホラーver☆
だが、それに意味はなかった。

外にも同じ光景が広がっていた。


側溝に被せてあるコンクリートの蓋の穴から飛び出た手は、穴に沿って一定の感覚で生えていた。

走り去る車やバイクのパイプは、排気ガスの代わりに腕を吐き出していた。

公園の土管ではぎゅうぎゅうと窮屈そうに、何本ものそれが蠢いている。


買い物帰りであろう、中年女性の持つレジ袋から飛び出すネギからも当たり前のように白い指は伸びていた。


町のあらゆる穴が女の手に支配されているというのに、だれも気にも止めていないようだった。


ねえ……くれないの……?


腹の中から響くような声に、脂汗がにじんだ。

穴のない場所を必死で探す。
しかしどこへいっても穴はあった。


ふと、思い付いた。
自分の家には地下室があったのだ。穴も隙間も全くない、閉ざされた空間が……


しかし、そこへ行くのは躊躇われる。

すると足を止めている間に背中をなぞられるような感覚がした。


勝手に……もらうわよお……


もう選択の余地はないと、無我夢中で地下室へ走った。


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