壱 ーイチー
第1章
.
人気のない路地裏。
特にやることもなく、暇つぶし程度に近所をフラフラと歩いていた時だった。
「あれ〜、黒永じゃーん」
私をいじめている奴らに、会ってしまった。
いじめられている理由なんてわからない。
もしかしたら、理由なんてないのかも。
男も女もごちゃ混ぜのこのグループは、ウチの高校でもトップクラスのやんちゃ達。
問題行動ばかりの、いつまで経っても大人になれないバカなガキ共。
「ウチらとここで出逢ったキネーン、脱げよ」
・・・ほらね。
こんなことして喜んでる。
なにが楽しいんだろう。
人を蔑むことでしか喜びを得られない、可哀想な人達。
「何ぼさっとしてんだよ、脱げよ早く」
このグループのリーダー格。
名前は忘れたけど、ピアスがジャラジャラ鬱陶しい奴。
「抵抗しねぇからいいよな、お前」
多勢に無勢。
そこまでバカじゃないもの。
変に抵抗して余計な怪我は負いたくない。
ーーーブチブチッ
ブラウスが破かれて、下着が露わになる。
「・・・うーわ、アザだらけ」
「ウチらがやったんだけどね!」
「「ギャハハハ」」
下品な笑い声。
「アンタさ、笑わないし泣かないし、キモイんだよね」
・・・この状況で笑えるかよ。
髪を掴まれ、平手打ち。
・・・あ、口の中切れた。痛い。
「おいおい、顔はやめとけって。カワイソーじゃん?」
「思ってねーじゃん、カイト」
あ、カイトって言うんだ。どうでもいいけど。
口の端を流れる血を拭い、目の前に立つピアス男を睨みあげる。
「何その顔。そそるんですけどー」
訳の分からんツンツンヘアーの金髪男。
「え、これヤッちゃっていいやつ?」
頭の悪そうなハナタレ小僧。眉毛生やせ。
「こいつ何しても何も言わないから大丈夫だよ」
「施設育ちだから親もいねぇし」
ピンクと黒のメッシュに、茶髪のギャル二人。
・・・どっからそんな情報拾ってくるんだか。
「じゃ、いっただっきまーす」
ーーードゴッ
突然、目の前の眉なし小僧が吹っ飛んだ。
大袈裟な表現じゃなく、本当に “飛んだ” 。
「・・・テメェ、・・・ぅぐぁ!」
真っ黒な服に身を包んだソイツは、ものの数秒で男勢を倒してしまった。
「・・・アンタ、」
ピンクメッシュのギャルがなにかに気づいた。
「・・・ぃ、壱・・・ッ」
・・・イチ・・・?
聞いたことがある。
治安の悪いこの街で、たった1人でひとつの族を潰せる男。
銀色の髪と、人間離れした藍色の瞳。
ーーーバチィッ
「きゃあっ」
ぼけっと座り込んでいると、“壱”は目の前のギャル二人に容赦ない平手打ち。
私がやられたのなんて、甘く感じるほどの凄まじい音。
聞いたことがある。
“壱”は、女相手にも容赦ない と。
起き上がって壱に殴り掛かる男共は壁に叩きつけられ、また地に伏せる。
圧倒的な力の差。
初めて人を、“怖い”と思った。
女相手にも容赦なく倒してしまった壱は、ユルリとこっちを振り返った。
銀色の前髪から覗く瞳は妖しく光り、返り血すら自分のモノにしてしまう。
正直、怖いなんてモンじゃない。
目の前で女が気絶させられるのを見てしまったんだから。
ゆっくり近づいてくる壱に怯えて後ずさるも、背中に壁の感触を感じる。
覚悟を決めてギュッと目を瞑ったとき、ツンツン、と肩をつつかれた。
恐る恐る目を開けると、上半身裸で私の目の前にしゃがみこみ、観察するようにジッと私を見つめている壱。
・・・なぜだろう、怖くない。
気だるそうなその表情は、寝起きの猫みたい。
なんだか可愛くて、そっと手を伸ばしてみる。
その手を取られて一瞬体が強ばったけれど、壱は一切表情を変えずに私を立たせた。
無言で持っていた黒いパーカーをすっぽりと私に着せ、私の手を取ってどこかに歩き出す。
これが、私達の出逢い。
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人気のない路地裏。
特にやることもなく、暇つぶし程度に近所をフラフラと歩いていた時だった。
「あれ〜、黒永じゃーん」
私をいじめている奴らに、会ってしまった。
いじめられている理由なんてわからない。
もしかしたら、理由なんてないのかも。
男も女もごちゃ混ぜのこのグループは、ウチの高校でもトップクラスのやんちゃ達。
問題行動ばかりの、いつまで経っても大人になれないバカなガキ共。
「ウチらとここで出逢ったキネーン、脱げよ」
・・・ほらね。
こんなことして喜んでる。
なにが楽しいんだろう。
人を蔑むことでしか喜びを得られない、可哀想な人達。
「何ぼさっとしてんだよ、脱げよ早く」
このグループのリーダー格。
名前は忘れたけど、ピアスがジャラジャラ鬱陶しい奴。
「抵抗しねぇからいいよな、お前」
多勢に無勢。
そこまでバカじゃないもの。
変に抵抗して余計な怪我は負いたくない。
ーーーブチブチッ
ブラウスが破かれて、下着が露わになる。
「・・・うーわ、アザだらけ」
「ウチらがやったんだけどね!」
「「ギャハハハ」」
下品な笑い声。
「アンタさ、笑わないし泣かないし、キモイんだよね」
・・・この状況で笑えるかよ。
髪を掴まれ、平手打ち。
・・・あ、口の中切れた。痛い。
「おいおい、顔はやめとけって。カワイソーじゃん?」
「思ってねーじゃん、カイト」
あ、カイトって言うんだ。どうでもいいけど。
口の端を流れる血を拭い、目の前に立つピアス男を睨みあげる。
「何その顔。そそるんですけどー」
訳の分からんツンツンヘアーの金髪男。
「え、これヤッちゃっていいやつ?」
頭の悪そうなハナタレ小僧。眉毛生やせ。
「こいつ何しても何も言わないから大丈夫だよ」
「施設育ちだから親もいねぇし」
ピンクと黒のメッシュに、茶髪のギャル二人。
・・・どっからそんな情報拾ってくるんだか。
「じゃ、いっただっきまーす」
ーーードゴッ
突然、目の前の眉なし小僧が吹っ飛んだ。
大袈裟な表現じゃなく、本当に “飛んだ” 。
「・・・テメェ、・・・ぅぐぁ!」
真っ黒な服に身を包んだソイツは、ものの数秒で男勢を倒してしまった。
「・・・アンタ、」
ピンクメッシュのギャルがなにかに気づいた。
「・・・ぃ、壱・・・ッ」
・・・イチ・・・?
聞いたことがある。
治安の悪いこの街で、たった1人でひとつの族を潰せる男。
銀色の髪と、人間離れした藍色の瞳。
ーーーバチィッ
「きゃあっ」
ぼけっと座り込んでいると、“壱”は目の前のギャル二人に容赦ない平手打ち。
私がやられたのなんて、甘く感じるほどの凄まじい音。
聞いたことがある。
“壱”は、女相手にも容赦ない と。
起き上がって壱に殴り掛かる男共は壁に叩きつけられ、また地に伏せる。
圧倒的な力の差。
初めて人を、“怖い”と思った。
女相手にも容赦なく倒してしまった壱は、ユルリとこっちを振り返った。
銀色の前髪から覗く瞳は妖しく光り、返り血すら自分のモノにしてしまう。
正直、怖いなんてモンじゃない。
目の前で女が気絶させられるのを見てしまったんだから。
ゆっくり近づいてくる壱に怯えて後ずさるも、背中に壁の感触を感じる。
覚悟を決めてギュッと目を瞑ったとき、ツンツン、と肩をつつかれた。
恐る恐る目を開けると、上半身裸で私の目の前にしゃがみこみ、観察するようにジッと私を見つめている壱。
・・・なぜだろう、怖くない。
気だるそうなその表情は、寝起きの猫みたい。
なんだか可愛くて、そっと手を伸ばしてみる。
その手を取られて一瞬体が強ばったけれど、壱は一切表情を変えずに私を立たせた。
無言で持っていた黒いパーカーをすっぽりと私に着せ、私の手を取ってどこかに歩き出す。
これが、私達の出逢い。
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