壱 ーイチー
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あの後、とりあえずは施設に戻ることになった。
何者、とは思ったけれど、作戦なるものは単純で。
壱の妹として、壱のお父さんに引き取ってもらうことになったのだ。
正直、家族はお父さんだけで充分だけれど、お父さんのことを侮辱するような人達と暮らすのはもううんざり。
そして、壱のお父さんと会う日。
「・・・緊張してる?」
「するよ、そりゃ」
あれから何度も壱と会っているけど、案外普通の人だったということを知った。
バカみたいに喧嘩は強いけど。
「大丈夫だよ、親父はアホだから」
あと、家族と仲良しらしい。
いい子じゃないか、普通に。
待ち合わせの時間、五分前。
壱と二人で待っていると、前方から明らかに雰囲気のおかしな人が歩いてきた。
グラサンにオールバック、黒いスーツ。
周りには何人もの厳つい兄ちゃんを連れ歩いてくる。
「あ、親父」
嘘でしょ。
グラサンを外してゆったりこっちに歩いてくる人は、どう見てもお父さんと同じ職種。
「・・・もしかして、トシの・・・」
トシ、とはお父さんのあだ名。
よく、“トシ”と呼ばれていた。
どうしてこの人、お父さんのこと・・・。
「目がそっくりだ。
そうか、雪ちゃんか・・・」
懐かしむように、私の頭を大きな手で撫でる。
未だに状況が理解できない私と、どうやら壱もそうらしい。
「親父、どういうことだ?」
「まぁ落ち着け。
茶でも飲みながら話そうじゃねぇか」
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