ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。
「俺に教師を辞めろってか」
「そういうわけじゃ……」
じゃあ、どういうわけで言ったんだろう自分に問いかけた。
来年からの異動が決定しているというのに、行かないでなんて、本当に子どもすぎる。
こんなことを言ったって、先生を困らせるだけなのに。
「この世の終わりみたいな顔するなよ。同じ日本だし、海外に行くわけじゃない」
「でも遠いです……」
「車で4時間、新幹線なら2時間だよ」
「……遠い、です……」
ただでさえ学校という空間でしか繋がることができなかったのに、先生が別の場所へと行ってしまったら、私はどうやって先生と繋がればいいの?
遠くに行けば、話すことも会うこともない。
そしたら、本当に本当に手の届かない人になってしまう。
涙がぽろぽろと流れた。
泣くなんて、鬱陶しいって思われるだけなのに止まらない。
「だからお前はガキなんだよ」
先生のため息が聞こえて、私は睨むように顔を上げた。
腹がたつのに、先生への想いは消えない。この涙のように流れ落ちてくれたらいいのに。
「……この学校を辞めるなら、私は生徒じゃなくなりますか?」
強い瞳で先生を見た。
「お前が高校生の間はどこに行っても生徒だよ」
「じゃあ、卒業したら……」
「桜井」
次に言葉を遮ったのは先生のほう。