ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。
「お前は大人の階段を転げ落ちるタイプだよ」
何故かその口元は笑っている。
「どういう意味ですか?」
「突っ走りすぎて怖いってこと」
先生はそう言って、私の涙を拭った。
こんなに優しく触れるなんて、本当にズルい人。
今すぐにでも、この胸に飛び込みたい。でも先生は教師で私は生徒。そして私は17歳で迷惑をかけてしまう年齢だ。
カバンひとつで先生に付いていく勇気もないし、実行したところで先生と対等にはなれない。
だから今は、我慢する。
この気持ちはこんなにも溢れているけれど、ちゃんと私も子ども扱いされないように成長して、隣に並んでも恥ずかしくないように。
「和泉先生」
私はまっすぐに先生を見つめた。
「私が大人になって、ブラックコーヒーが飲めるようになったら、またもう一度先生に会いにいきます。その時に、私の気持ちを全部伝えるから、笑わずに聞いてくれますか?」
幼さを理由にはさせない。
先生は優しい顔をして私の頭をくしゃりと撫でた。そして、その唇がゆっくりと動く。
「うん、待ってる」
叶わなくても、堂々と先生と向き合えるように。
少しずつ、一歩ずつ、大人になっていこう。
*END*