ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。


和泉先生は、すごくモテる。

おじさんしかいない教師の中で若い先生がいれば人気になるのは当たり前だけど、女子たちはまるで飢えた動物のように先生の周りへと群がる。


「先生って彼女いるのー?」

話は9割、先生のプライベートのこと。


「あー、いるいる。いっぱいいる」

普通は否定するところを、先生はこうして軽い口調で流す。

そのたびに女子たちは「えー」と言いながらも、嬉しそうな顔をしてまた次の質問をする。


和泉先生は先生だけど、先生らしくない。

ほとんどの人が敬語を使わずに喋っても怒らないし、たまに同級生の男子たちと友達のように漫画の話で盛り上がったりしている。


「じゃあ、ここからここまでの問題で分からない人いる?」


だけど先生の授業は分かりやすいと評判で、他の授業ではふざけているクラスメイトも先生の授業の時だけは真面目にやっている。


先生が黒板に書いた数式はとても見やすい。

数学の教科書を左手で持ちながら右手でチョークを走らせて、私は黒板よりも先生の大きな背中ばかりを見てしまう。


先生に恋心を抱いたのがいつだったのか自分でも覚えてないけど、少なくとも入学式の時に体育館で先生の姿を見た時には、すでに心臓が知らない動きをしていた。


一目惚れだった。

見た目だけで恋に落ちるなんて浅はかだと思うけど、先生のことを知れば知るほど、どんどん気持ちが溢れていって、今ではいつも先生のことばかりを考えている。

  
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