ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。
「あの、先生。ここがよく分からなかったので教えてください」
そして私はその日の放課後。数学のノートを握りしめて先生の元へと向かった。
非常口のドアを開けると、そこにはコンクリートの階段があって、先生はそこで煙草を吸っていた。
「はあ……。ここには来るなって言わなかったっけ?」
先生は煙草を口にくわえたまま、ため息をつく。
喫煙者には厳しい世の中で、教師たちも学校では吸うことを禁止されていて、昔あったと言われる喫煙所も今ではなくなってしまったらしい。
だから先生はこうして人目につかない非常階段で、こっそりと一服している。
「そもそもこの場所は先生のものじゃないので、私が制限されるのはおかしいと思います」
「誰にも言うなよ。ここは俺のオアシスなんだから」
先生はそう言って、煙草の煙を空へとはく。
誰かに言うわけがない。
先生がここにいることを目撃したのだってたまたまだし、私はむしろ他の人にバレませんようにって願ってる。
だってここは唯一、先生とふたりきりになれる場所だから。