ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。
先生の座っている横には、またブラックコーヒーが置いてあった。どうやら飲み終わった缶を灰皿代わりにしてるようだ。
「んで、どこが分からないんだよ」
先生はぶっきらぼうな言い方をして煙草の火を消した。そして「貸せ」と私の数学のノートを指さす。
私はノートを差し出したあと、ちょこんと先生の隣に座った。
階段の幅は狭くて、隣同士で並ぶと肩が触れ合ってしまうほどの近さ。
心臓の音が先生に聞こえてしまうかもしれないと思うほど、私はドキドキしていた。
先生は何故かパラパラとノートをめくっていて、自分でここに来たくせに私は借りてきた猫のように静か。
「桜井って字キレイだよな」
距離が近いおかげで、先生の低い声がいつもより響いて聞こえる。
「昔、硬筆を習ってたことがあるので……」
「へえ、段位もってんの?」
「一応、三段です」
「マジ?すげえ」
やっぱり先生は授業以外だと先生って感じがしない。
親しみやすいし生徒と同じ目線で話してくれるけど、そのプライベートなことは謎に包まれたまま。
秘密主義なのかもしれないし、生徒に話してはいけないとそこはしっかりと一線を引いてるのかもしれない。
だけど、私は先生のことを知りたい。