ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。
「先生って、本当は彼女いないですよね?」
これは賭けだ。
みんなと同じように質問をすれば、またいつものように『いっぱいいる』なんて、流されるだけだと分かっていた。
だからあえて、いないことを前提とした聞き方をしてみたのだ。
「あ?なんで?」
先生は不機嫌そうにムッとする。
ほら、私の予想どおり乗ってきた。
「いないでしょ、どうせ」
「いねーよ。悪いかよ」
先生はまた煙草に火をつけて、乱暴に煙をはいた。
制服に匂いが付いたらどうしよう、なんて頭の片隅でそんなことを考えていたけど、それ以上に先生に彼女がいないことにホッとした。
先生を逆撫でするような言い方をしたけど、『いるよ』なんて言われたら……。
多分、私は立ち直れないほどショックだったと思う。
「煙草って、そんなにおいしいですか?」
お父さんも歳の離れたお兄ちゃんも煙草は吸わないから、こんなに間近で吸う姿を見たのは先生が初めて。
あまり煙草にたいして良いイメージはなかったけど、その動作がいちいちカッコよくて見とれてしまう。