ブラックコーヒーが飲めるまで、待って。


そして次の日も、また次の日も先生の周りには女子たちが集まっていて『ラインのID教えてー』とせがまれている。

先生はいつものように『俺、ガラゲーだからムリ』と見え透いた嘘をついて流していた。


「桜井、この数式答えてみろ」

今日の授業で何故か私が指されて、先生が黒板に書いた数式に私が答えを書いていく。


私の気持ちを知っているくせに、ズルい。

特に難しい問題じゃないのに、横で先生が腕組みをしながら見てるから、褒められた字もいびつになってしまった。


「はい、正解。よくできました」

書き終わった私に先生がそう言って、クラスメイトたちに形だけの拍手を求める。

パチパチと、乾いた拍手が響く中で私は自分の席へと戻り、先生はまた黒板に新たな問題を書き始めた。

なにを考えてるか分からない先生にイライラしてるはずなのに、やっぱりその後ろ姿はカッコよくて、自分でもバカだなって呆れてしまう。


私が高校を卒業するまで、あと1年。

それまでに、この距離は縮まるだろうか。

振り向かせる自信はない。でも、この気持ちだけは本気だと知ってほしい。


それなのに、そんな時間も先生は与えてくれない。
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