極上スイートキス~イケメンCEOと秘密のコンシェルジュ~
司だった。
「……っ」
みのりは赤面したまま、二三歩さがって伊崎と距離を取る。
「それとも伊崎さんには、やっぱり特別待遇なのかな」
今見た光景を愉しむように司は笑っていた。
「そ、そんなことは……」
我に返ったみのりは、大きく首を振る。
仕事中なのに、なんてことを、と頭の中がパニックになっていた。
「へぇー、じゃあ俺がオーダーしても、篠田さんが来てくれる?」
「もちろんです」
「……」
紘平は顔色ひとつ見つめていたが、どこか表情には不機嫌さがにじみ出ていた。
「司、休憩終わるぞ」
「あれ、なんすか、伊崎さん何か怒ってます?」
司はからかうように言った。
「いいじゃないですか、コンシェルジュはみんなのもの。伊崎さんだけのものじゃないでしょ……って痛ぇ!」
口の回る部下の頬をつねると、紘平はふん、とその場を去った。
「あーあ、邪魔されてふくれてやんの」
つねられた頬を大げさにさすりながら、司が言う。
邪魔? 今、キスしようとしてた?
みのりは茫然としながら紘平の背中を見つめる。
確かに今、司が現れなければ、唇同士、触れ合っていただろうと想像して、みのりの頬は熱くなる。
さっきの行動はどういう意味?
先輩、結婚してるんじゃないの?
どうしてあんなこと……。
考えがまとまらず、立ち尽くしていると。
「俺にもキスしてくれる?」
えっ、と振り向くとすぐそばに今度は司の顔があった。
綺麗な顔に悪戯な笑み。
どきりとして、後ずさりをする。
「な、何言ってるんですか」
「だって、何でもしてくれるんでしょ」
「それは……」
「それともやっぱり伊崎さんは特別?」
答えられない。
勤務中である以上、紘平はお客様だからというべきなのに。
「ノーコメントか、やっぱり伊崎さんに夢中じゃん」
司はすべてを見透かしたような視線でみのりを見つめる。
心の中をすべて言い当てられた気がして、言葉が出てこない。
紘平に夢中、それは過去の憧れを引きずっているだけだと思っていたのに。
「時間が経ってもそんなに熱を上げるなんて、伊崎さんてやっぱり昔から完璧だったわけだ」
「……昔から、尊敬できる先輩でした」
その言葉ひとつで、過去の記憶が一気に蘇る。
もしかしたら、自分はずっと心の中で紘平に憧れて、追いかけてきたのかもしれない。