極上スイートキス~イケメンCEOと秘密のコンシェルジュ~
「私もそういう時あったけど、頭で考えちゃうと、一気に飛べなくなるよね」
成美がドリンクを飲みながら言う。
同種目の悩みは痛いほどわかるのだろう。
「乗ってる時ほど無心だし」
確かに、以前は何も考えずに飛んでいた。
私はどうやって飛んでいたんだっけ。
無心で、楽しくハードルを飛んでたいた頃の自分が思い出せないまま、みのりは合宿最後の練習を終えた。
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「やだー! 短距離先輩チームまじうざーい!」
合宿所からひときわ大きな声が聞こえる。
最終日を終えた打ち上げのまっさい中だった。
成人した先輩たちが酒を開けて、後輩たちに絡んでいるらしい。
それでも男女関係なく仲の良い部員たちは、大いに楽しんでいるようだった。
「今の声は……成美かな」
みのりは、ふっと小さく笑みをこぼした。
打ち上げで盛り上がる中、トイレに行くと告げて合宿所を抜け出した。
1人歩きながら夜空を見上げると、街ではみたこともないほどの星が瞬いている。
山間では光を遮るものがなかった。
空気も澄んでいて、それが一層星たちを輝かせる。
「……綺麗」
何となく打ち上げを楽しむ気持ちになれなかった。
昼間のハードルの失敗もある。
そして、もうひとつは……。
「……最後の、合宿」
伊崎先輩と、と口の中で呟く。