極上スイートキス~イケメンCEOと秘密のコンシェルジュ~
「でも驚きました。伊崎先輩が、私のことを覚えているとは思っていなかったので……」
「どうして」不思議そうに紘平は言った。
「それは……えっと」
紘平が人気者で、自分なんか眼中になかっただろうと喉まで出かかり。
「陸上部には部員が大勢いましたし」ごまかすように、言葉を繋げる。
「そうだけど、部長として部員の顔を覚えていないやつはいないよ」
紘平は確かに部員に対して、いつも気配りを忘れない部長だったことを思い出す。
部長としての役割に加え、自分のトレーニングでも多忙だったはずなのに。
少しでも時間が空けば、部員1人ひとりにアドバイスするも惜しまなかった。
もちろん顧問たちからの人望も厚かった。
そんな彼の気質を思えば、今ある若手社長というポジションは当然のものなのかもしれない。
「部員の中でも、特に篠田は頑張ってたから。よく覚えてる」
「本当ですか?」
思わず声が弾む。仕事モードが一瞬、どこかへ飛んで行ってしまった。
「ああ」その明るいトーンに気付いたのか、紘平の眉がしなやかに下がる。
「本当だよ」
ゆったりとした頷き。
人の心をつかむのが本当にうまい。
そういうところも好きだった。
心の奥にしまわれていた気持ちが、簡単に零れてしまう。
気付いた時にはあの頃の、先輩と後輩の雰囲気に引き戻されていた。