××夫婦、溺愛のなれそめ

「……う、うーん」

ベッドの中で寝がえりを打つ。アラームは鳴っていない。ならばもう少し寝かせて……。

手の甲でまぶたに差し込む朝日を遮ろうとする。しかし、全身に感じるシーツの感触がいつものものとは違っていることに気づき、ハッと目を開けて跳び起きた。

周囲を確認する。おそらくシルクであろう肌触りの良いシーツにも、自分が座っているワイン色の掛布団がかかっているベッドにも、やたらと広くて豪華なこの室内にも見覚えがない。

横を見ればガラス張りの窓から朝日に照らされた東京のビル群が一望できる。

窓際には六人くらい座れそうな大きな白いソファとダークブラウンのテーブルが。

どこかの高級ホテルだろうか。こんなに広くて長めの良い部屋、泊まったことがない。

焦りと不安の中で必死に記憶を呼び覚ます。

空港に婚約者だった男を送りに行き、そこで一方的に別れを告げられたことははっきり覚えている。そのあと駐車場の近くに移動して、ベンチに座って途方に暮れて。

「どこからが……夢?」

白い外車が目の前に停まり、そこから出てきた王子様と移動した。海辺をデートしたあと、日が暮れる頃に彼がエスコートしてくれたのは、一流ホテルのレストランだった。

ホテルの一室を借り、用意されたドレスに着替えた。少し大きめのドレスはおそらく王子様をフッた女性のためのものだったんだろう。今思えばレストランの予約も、その人と過ごすためにしてあったに違いない。

レストランでどんな料理が出たかはよく覚えていない。ただ王子様が慣れた様子でワインを注文し、それが美味しかったために次から次へと喉に流し込んでしまい……。


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