××夫婦、溺愛のなれそめ
神藤さんの合図で、給湯室に緊張が走る。
「じゃあ、私がお茶を淹れます。莉子さん、出してくださいね」
「は、はい」
真由さんについてきてほしい……。でも、わざわざお茶出しに二人で行ったら不自然だよね。まるで私が一人じゃ何もできない人みたいだし。
私が淹れるより数倍美味しいと秘書室で言われている真由さんの淹れたお茶を、お盆で運ぶ。
浅丘兄弟がいるという談話室の前で、深呼吸する。
さあ、仮面をかぶるのよ。私は性格の良い、レヴィの妻──!
漫画の主人公のように自分に暗示をかけ、扉をノックして部屋の中へ。
「失礼いたします」
会釈し、極上の作り笑顔で前を向く。そこにいたのは、もう見慣れてしまった王子顔のレヴィと、その向かいに座る黒髪のお兄さんだった。
お兄さんは会長の遺伝子を濃く受け継いだみたい。金茶色の髪、ヘーゼルアイのレヴィとは対照的に、黒髪とダークブラウンの目をしている。
けれど平面的な日本人顔ではない。彫りが深く、くっきりとした目鼻立ちはレヴィと似ている。美男と言って間違いない。
お茶を置いてから挨拶しよう。そう思ってさっさと二人の前に湯呑を置いた瞬間、兄上殿が口を開いた。