××夫婦、溺愛のなれそめ

真由さんは「セクハラだ」と怒るわけもなく、困ったように笑う。

……「いいお嫁さんになりそう」? あてつけか。あてつけなのか。

とうとう作り笑いもできなくなってきた私なんて見ず、お兄さんは真由さんを指さしてレヴィに言う。

「おい、こっちの子のほうが可愛いじゃないか。しかも性格がよさそうだ。どうしてこっちにしなかった」

あてつけとかそんなレベルじゃない。

明らかなセクハラ発言に、いい加減腹が立ってきた。

「兄さん、ひどいです。莉子に謝ってください」

「は? なんで?」

怒って立ち上がるレヴィ。おろおろする真由さんと神藤さん。全然平気な顔で毒を吐きまくるお兄さん。

なんなのよこれ。最初から私のことを受け入れる気なんてないんじゃない。

そんなに嫌いならいいわよ。私だって、こんなやつに媚び売ってまで好かれようとは思わない。

「失礼いたします」

まただ。退職した、あのときと同じ。

邪魔者はいなくなればいい。私がこの場からいなくなればいいんだ。

お茶の乗ったお盆を片手で持ち、片手でドアを開ける。

「莉子、待って……」

レヴィの声が聞こえたけど、私は立ち止まらなかった。

乱暴にドアを閉め、お茶がこぼれそうな勢いで給湯室に戻った。

「なによ、なによあの性悪小姑!」

不思議なことに、退職の時とは違い、ひとりになってもちっとも清々した気持ちにはなれなかった。

< 128 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop