××夫婦、溺愛のなれそめ
真由さんは「セクハラだ」と怒るわけもなく、困ったように笑う。
……「いいお嫁さんになりそう」? あてつけか。あてつけなのか。
とうとう作り笑いもできなくなってきた私なんて見ず、お兄さんは真由さんを指さしてレヴィに言う。
「おい、こっちの子のほうが可愛いじゃないか。しかも性格がよさそうだ。どうしてこっちにしなかった」
あてつけとかそんなレベルじゃない。
明らかなセクハラ発言に、いい加減腹が立ってきた。
「兄さん、ひどいです。莉子に謝ってください」
「は? なんで?」
怒って立ち上がるレヴィ。おろおろする真由さんと神藤さん。全然平気な顔で毒を吐きまくるお兄さん。
なんなのよこれ。最初から私のことを受け入れる気なんてないんじゃない。
そんなに嫌いならいいわよ。私だって、こんなやつに媚び売ってまで好かれようとは思わない。
「失礼いたします」
まただ。退職した、あのときと同じ。
邪魔者はいなくなればいい。私がこの場からいなくなればいいんだ。
お茶の乗ったお盆を片手で持ち、片手でドアを開ける。
「莉子、待って……」
レヴィの声が聞こえたけど、私は立ち止まらなかった。
乱暴にドアを閉め、お茶がこぼれそうな勢いで給湯室に戻った。
「なによ、なによあの性悪小姑!」
不思議なことに、退職の時とは違い、ひとりになってもちっとも清々した気持ちにはなれなかった。