××夫婦、溺愛のなれそめ
「浅丘家の嫁にはふさわしくない!」と直接言わないにしても、それとほぼ同じ発言を頻繁にぶつけられると、イライラを通り越して悲しくなってくる。
そんなの、わかってるっつうの。
私は庶民の出だし、父親は万年平社員。母はなんとかキャリアウーマンだけど、家のことは放りっぱなし。
私自身特別な技能もない、平凡な人間だ。それどころか、性格も悪い。
真由さんみたいに秘書検定持ってて、実は英語も話せて、美人で気が利く子の方が、そりゃあお嫁さんにする方は鼻高々だろう。
親族だって、それなら納得できる。
でも、レヴィが私でいいって言ったんだもん。
愛情も恋も一欠片も関与しない契約結婚だけど、最近はそうじゃなかった。
私もレヴィも、結婚してから恋が始まった。
そう思っていたのは私だけ?
もしかして、レヴィも義兄の態度を見て、私をお嫁さんにするんじゃなかったと後悔してる?
彼は優しい。それ以上に、浅丘グループに残るため、私をお嫁さんにしてくれた。
ぽちゃんと湯船に顔をつける。そのままだと当然、だんだん息が苦しくなってくる。
私、やっぱりレヴィの奥さんになる資格なんてないのかもしれない……。
お湯から顔を上げた。濡れた頬を、お湯に混じった涙が通り過ぎていった。