××夫婦、溺愛のなれそめ
「離して」
「いやだ」
無理やりに唇を奪いにくるレヴィ。私は思いきり身をよじり、彼の腕から脱出した。
「口角炎が痛いって言ってるじゃない! ヘルペスだったら、伝染するんだからね。あなたに何かあったら、文句言われるのは私なんだから……っ」
『あなたに何かあったら文句を言われるのは私』
今日ずーっとモヤモヤしていた本音を思わずぶちまけてしまった。
私は普通に生きているだけ。でも巨大グループの御曹司の妻になってしまったばかりに、私ばっかり嫌な思いをしてる。
「莉子……」
捨てられた子犬のような目で私を見るレヴィ。いたたまれなくなって、私はその場から逃げだした。
自室に入り、スキンケアもそこそこにベッドにもぐりこむ。
もうやだ。どうして私ってこうなんだろう。完全に八つ当たりじゃない。
義兄の嫌味なんて、受け流してしまえばいい。お弁当も強制じゃないんだから作る義務はない。
でもいちいち気にしてビクビクしてしまうのは、自分に自信がないからだ。
真由さんみたいなスーパーレディでないことを自分でわかっているから、臆病になってしまう。
そうだとわかっているのに……。