××夫婦、溺愛のなれそめ

後頭部をかく私を責めるでもなく、王子様は真顔で言い放った。

「そう。でも、なかったことにはできないよ。きみが覚えていようがいまいがね」

「えっと……」

「僕たちは昨夜婚約したんだ」

「は!?」

この王子様、何言ってるの? 婚約って? もしかして、ペラペラのように見えて日本語が不自由なのかしらん。

呆然とする私の左手をとって、彼はその甲に軽くキスを落とす。そしてその親指で愛しそうに私の薬指のリングをなでた。

「ん?」

そこには元カレにもらった婚約指輪があったはず。ぱっと手を放して、自分の薬指を見る。そこにあったのは、姿を変えた知らないリングだった。

ちょっと子供っぽかった、ダイヤがハート型にカットされたリングとは全然別物。四角いクッションみたいな形の大きなダイヤの周りを小さなダイヤが二重に囲んでいる。リング部分にもダイヤがびっしりと埋め込まれていた。

なぜそれがすべてダイヤだとわかるのかというと、元カレと足を運んだ宝石店で同じものを見たから。

店員はその店で最高額だったこの指輪を猛プッシュしてきたのだけど、ダイヤのカラットを落としても、周りのダイヤをビーズに変えてもかなり高価になることがわかったので、彼より私が引いてしまったのだった。

今思えば、同じものを買わせておけば良かったな。慰謝料代わりになるなんて思ってなかったから、遠慮しちゃったよ。


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