××夫婦、溺愛のなれそめ
「じゃあ、お先に」
ぱぱっと原稿とコピーされたものをまとめて、部屋を出ていく真由さん。
私はそれを見送り、自分の原稿をコピーし始めた。
壁にもたれて、ふうと息をつく。時計を見るともう午後三時。
あと少し。あと少しで仕事が終わる。
残り二時間、残り一時間……。
パソコンの隅に表示される時間をちらちら見ながら、午後の仕事を終えた。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
定時になると同時に立ち上がった私を、神藤さんが座ったまま見上げる。
「今日は早いんですね」
いつもは、レヴィの仕事が終わるまで秘書室でコーヒーを飲んで待っている。
なので一番乗りに帰ることは少ないし、レヴィから声をかけられるまで席を立ったこともない。
そんな私が勝手に帰ろうとしているので、神藤さんは呼び止めずにいられなかったんだろう。
「ええ。さようなら」
神藤さんは今私の上司でもあるけど、結局は他人だ。
レヴィより先に帰る理由を説明しなきゃいけない義務はない。
わざと口角を上げて会釈する。他人の目もあるからか、神藤さんはそれ以上何も言わなかった。