××夫婦、溺愛のなれそめ
前の会社とレヴィの会社は同じ業種だものね。でも、いったいどこからそんな噂が?
レヴィが前の会社に現れたこともあったけど、あのとき近くにいた女性たちが一目でレヴィが浅丘グループの御曹司だと気づくだろうか?
「えらいの捕まえたな。そのぶん苦労は多いけど、俺よりいい暮らしさせてくれるだろうから、頑張れよ」
完全に肩の荷が下りた。そんなような表情で笑う博之。人のことだと思って。
私たちは会計を済ませ、一緒に外に出た。店の前で、博之が足を止める。空はもう真っ暗かったけど、時計を見ると七時ちょっと過ぎたくらい。真夜中と言うほどでもない。
「会えて良かった」
「私も」
「元気でな」
私はその言葉に静かにうなずいた。『またね』とは言わなかった。
きっともう、彼と会うことはないだろう。だって彼は元カレで、友達じゃない。
既婚者の私が、やすやすと会ってはいけない相手だ。レヴィが、きっと気を悪くするから。
博之もそのことはわきまえているようで、次の約束が交わされることはなかった。
私たちはどちらともなく相手に背を向け、それぞれの方向へ歩き出した。