××夫婦、溺愛のなれそめ

「い、行ってきます」

とにかく呼ばれたからには行かなくては。一応秘書の皆さんに会釈をして、その場を離れた。


隣の部屋では、レヴィが専用の重厚さを感じる机に肘をついて座っていた。

眉間にはしわがより、目はいつもより吊り上がっているように見える。

部屋の中にはレヴィと神藤さんのほかに誰もいなかった。

「座って、莉子」

机の前には応接セットがある。けど、自分だけそこに座る気にはなれなかった。

レヴィの正面に立ち、横にいる神藤さんに視線を送る。すると彼は、ため息をついて話を切り出した。

「困ったことになりました。新製品の情報が漏えいしていたばかりか、それを相手の会社に先に発表されてしまいました」

「えっ。こちらが開発した製品を、あたかも自分たちが開発したようにして発表したってことですか?」

「ええ、そうです。やられました。相手は特許申請も済ませたようです」

神藤さんが持っていたタブレットの画面を私に見せる。そこには、とある企業が今までとは透明感も強度も従来の製品とは比べ物にならない新製品の開発に成功したというニュースの記事が。

そのとある企業とは……。

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