××夫婦、溺愛のなれそめ

一秒でも早く会社を出ようと、受付の前を走るように通りすぎる。

周りの視線が痛いのは、気のせいだろうか。

誰もが私を犯罪者だと思っているような錯覚に陥る。

──あと一歩。あと一歩で、ここから出られる。

回転ドアを押そうとした、そのとき。

「どこへ行く」

ドアの向こうからこちらに向かってきた人に、行く手を阻まれた。

その相手は、長身で整った顔だけれど、とても意地悪で憎い私の義兄、浅丘誠士だった。

彼は鋭い視線で私をにらむ。

「えらい騒ぎを起こしてくれたみたいだな」

追いつめるように、私との距離を狭めてくる。

きっともう、情報漏えい事件のことを聞いてきたんだろう。

反射的に、全身からぶわっと汗が吹き出す。

「最初からこれが狙いで、瑛士に近づいたのか」

詰問してくる声に、耳を塞ぎたくなる。

「違います」

だから今まで何度も、私とレヴィは偶然出会ったんだって言っているのに。

義兄はそれを信用していない。
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