××夫婦、溺愛のなれそめ

「来い。俺が警察に突き出してやる」

突然私の手首をつかむ義兄。通りかかった人たちがギョッとした顔でこちらを見る。

義兄の指は、骨を砕こうとしているかのごとく手首に食い込む。

「放してください! だいたいあなた、この会社とは関係ないじゃないですか」

義兄は義兄で、浅丘グループの別の企業の取締役をしている。どうして鬼のような顔をして首を突っ込んでくるのか。

「ここの企業の損失は、グループ全体の損失だ。そんなこともわからないのか」

「いたっ」

ますます力を強め、私をにらみつける義兄。

「俺たちは遊びで仕事してるわけじゃないんだよ。お前みたいにな」

ぐいっと手首を引っ張られ、堪えられなくなった左足が前に出てしまった。

警察なんて、冗談じゃない。

私、何もしていないのに──。

反論しようとした瞬間、後ろから厳しい声が飛んできた。

「兄さん、その手を放してください!」

はっと振り返る。そこには、金茶色の髪をした、私の王子様が立っていた。

「莉子、戻ろう。きみは何も悪いことをしていないんだろう? 逃げなくてもいい。僕の傍にいてくれ」


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