××夫婦、溺愛のなれそめ
会長が代理の者に出させると言っていた婚姻届。身分証明のために住民票も用意したのに、どうして。
黙りこくった私たちに、義兄は得意げに説明する。
「会長はこの結婚に裏があるんじゃないかって直感していたそうだ。なにかあった場合、瑛士の戸籍に傷がつくのは避けたい。だから会長はこれを出さずにしまっておいたんだ」
「なんだって。まさか」
レヴィがそれだけ言って、また黙ってしまった。自分たちの責任もあると思ったんだろう。
他人任せにせず、どうやっても自分たちで届を出すべきだった。そして、届が出されたと聞いたときに、住民票で確認すべきだった。
保険証も今の会社に移ってからずっと申請中のままくれなかった。けど、そういうのが遅い会社なのかと思っていた。おそらく、会長から根回しがあったんだろう。
保険証ができてから銀行などの名前や住所変更をしようなんてのんびり思っていたから、気づくのが遅くなってしまった。
「案の定。この話はなかったことにしてもらう」
義兄が婚姻届の端と端をつまんだ。
止めなければ、と思った時には遅かった。義兄が少し力を入れて引っ張っただけで、婚姻届は無残な音をたてて敗れた。