××夫婦、溺愛のなれそめ
「兄さん!」
「調査しなくてもわかるだろ、瑛士。この女がやったに違いない。ちょっと訊問すれば、すぐに吐くさ」
ドラマの悪い刑事みたいな言い方をした義兄の手の中で、婚姻届は何度も破られ、まとめられ、また破られ、粉々になっていく。
はらはらと彼の手から落ちる欠片が、床に散らばった。
「いいえ……いいえ、莉子はどこにもやりません」
警察に連れていこうとするのを拒否するレヴィ。
「どうせなら、もっとちゃんと調べてください。莉子の潔白が証明できるはずだ」
「できなければ?」
うかがうような視線の義兄を真っ直ぐ見て、レヴィは言った。
「彼女と一緒に、僕は浅丘グループから出ていきます」
「はっ?」
義兄が目を見開く。レヴィは決然とした表情で続けた。
「どっちみち、期限までに結婚できていなかったんだから。そして、こんな風に大事な人を傷つける身内と、これ以上やっていこうとは思わない」
「瑛士、お前なあ」
「失礼します」
まだ何か言っている義兄を振り切るように、私の肩に手を回して早歩きするレヴィ。
契約結婚までして、グループに残りたかったはずなのに、出ていくだなんて。
その真意を聞きたかったけど、今は周りの目がある。
私は黙ってレヴィに寄り添い、エレベーターへと逆戻りしたのだった。