××夫婦、溺愛のなれそめ

「多部さんには、一時期婚約者がいました。莉子さんです。私、その期間は情報を流さないようにしました。悔しかったからです。どうしてこんなに尽くしている私じゃなくて、他の女性なのかって」

誰も聞いていないのに、真由さんがぽたぽたと涙を流しながら訴え始めた。

「多部さんは迷っていたようです。莉子さんを取るか、情報を取るか。そして、私は勝ったんです。多部さんは彼女との婚約を解消するから、すぐ次の情報を送ってほしいと言ってきました」

まさか……博之がいきなり別れを切りだしたのは、真由さんが原因だったの?

「彼は、私が渡した情報を、開発部に自分のアイデアとして提供していたらしいです。しかし、私からの情報がなくなり、あっちの開発が滞ってしまった。だから急に営業として、海外転勤を命じられた。上層部もなんとなく、彼がやっていることに気づいていたんでしょう。いち営業マンが思いつく内容ではないはずですから」

溜めていたものを吐きだすように、真由さんはしゃべり続けた。

「それで……今回、新製品が出来上がったわけよね。一通りの情報を渡して、多部氏の反応はどうだったの?」

アラサー女性が真由さんに尋ねた。

「それが……なにも……」

ふるふると首を横に振り、彼女は嗚咽を零した。

「なにも? そこまでしたのに、あいつってば真由さんと付き合うって話をしてこないの!?」



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