××夫婦、溺愛のなれそめ
顔を上げた王子様が、こちらを見下ろした。ヘーゼルの瞳が希望に輝く。
「私は庶民出身ですが、良いですね?」
「かまわないよ」
乗りだした王子様がキスをしようとしてくる。私はそのあごを手で押さえ、話を続けた。
「私の希望は、自分が働かなくても配偶者の稼ぎで何不自由ない生活を送ること。子供は最低ひとりほしい」
「喜んで叶えよう。きみの望むものは、僕がすべて用意する」
「念のため、身分証を見せてください」
王子様が嘘をついていないという保証はない。
怪訝な顔をした王子様はそれでも立ちあがり、金庫の方へ歩いていった。ダイヤルを回して取りだした財布の中から免許証を取り出す。
それを差し出された私は、彼の名乗った名前が嘘ではないことを確認した。ついでに自分のスマホを持ってきて、彼の言う会社名を検索。CEOの彼の名前が間違いなくホームページに乗っているのを見て、やっとうなずいた。
「いいでしょう。交渉成立です」
この人と結婚すれば、住むところどころか、生活の全てを心配することはなくなる。結婚することを自慢してしまった知り合いにも堂々と顔向けできる。
こうしてお互いの利害が一致した私たちは、突然結婚することとなった。
昨日の不運を思えば、これから待ち受けるだろう波乱万丈の日々もなんてことないような気がしていた。