××夫婦、溺愛のなれそめ
そこは朝までいたホテルの客室と同じくらいの広さを持つリビングだった。大型テレビに豪華な革張りのソファ。そして、部屋の中央に鎮座しているのは、透明のグランドピアノだった。
うっわ。これ、すごいけど邪魔。これがなかったら、この部屋もっと広くなるのに。あっても十分な広さはあるけど、キッチンの前のダイニングテーブルがピアノに追い払われるようにこじんまりとしている。
「これ、何でできているの?」
「透明アクリル樹脂だよ。一曲弾こうか」
「レヴィさま!」
たわいない話をする私とレヴィの間に、神藤さんが割って入ってきた。
「この方はどなたですか。一昨日まで付き合っていた女性とは別人ですよね」
言葉遣いは丁寧だけど、その視線や仕草で「どこの馬の骨なんだ」と大声で叫ばれているような気分になる。
「昨日出会ったんだよ」
「昨日。いくら理事長やお兄様方に『自力で結婚相手を見つけられないヘタレ三男坊』とバカにされたからって、自暴自棄になることはありますまい。結婚は一生の問題です。もっと慎重になさった方が」
「慎重になっていたら期日に間に合わないだろ。お前は僕が追放されることを望んでいるのか?」
マシンガンのように言葉を放ち続ける神藤さんも、これには口をつぐむしかない。部屋の中は一瞬にして静かになった。