××夫婦、溺愛のなれそめ
女は怖いよ
次の日。
レヴィの依頼した業者はプロ中のプロで、引越しという大仕事が一晩で片付いてしまった。
私はあれこれ指示を出すだけで、自分の労力と言えば、下着をチェストに収納したくらい。チェスト本体やドレッサーなど、重い家具は小指一本すら触れてない。
そんなわけで、疲労感をほとんど残さず目覚めることができた私は、着替えてリビングに向かう。
「おはよう、莉子。今日も綺麗だね」
スーツ姿のレヴィはそう言うと、出勤用の服を着た私を軽く抱き寄せ、おでこにキスをした。
あ、甘い……。前の彼氏は普通の日本人だったせいか、こんなふうにされたことはない。照れてしまい、キスされたおでこを前髪で隠した。
その様子を、姑のようににらんでいる人がひとり。エプロンをつけた神藤さんだ。テーブルの上には焼き魚と煮物と卵焼きにラップがしてあった。コンロの上には味噌汁が入った鍋が。
昨夜帰ったはずなのに、もう来てる。気づかなかった。
「彼が朝食を用意してくれたから、遠慮なく食べて。僕はもう行かなきゃいけない」
「えっ、そうなんだ」
神藤さんがエプロンを外し、背広を着る。厚い手帳を片手に車のキーを持った彼は、完璧な秘書に見えた。
彼らに続き、玄関に向かう。靴を履いたレヴィがくるりと振り向いた。