××夫婦、溺愛のなれそめ
「行ってきます」

彼はそう言うと、今度は唇にキス。爽やかなミントの香りが鼻先をかすめた。

ふ、不意打ち。ずるい。

「い、いってらっしゃい」

本当の新婚さんみたい。笑顔を作って手を振ると、レヴィもヘーゼルの目を細めて満足そうな顔をした。

新婚さんって言うか……新婚さんごっこ、みたいね。

何も見なかったふりをしてくれているのか、神藤さんは無言。そんな二人を見送り、マンションの中には私ひとり。

不用心ね。私がこの部屋を漁って金目のものを奪って逃走するかも、とか思わないのかな。それとも盗られても構わないものしか、ここにはないのか。

変な緊張感が解け、食事が置かれたテーブルにつく。

ありがたくそれらをいただくと、まるで旅館の朝食のような味がした。天然だしのいい香りがする。どれも絶品で、思わずうなった。

料理は人並みに出来る気でいたけど、神藤さんは人並みではなく達人の域に達している。

私はこれに勝てるだろうか……。お茶をすすっていると、携帯が震えた。いけない、アラーム。そろそろ出社の時間だ。

手早く食器を洗って片付け、マンションを出た。このときまで私は、レヴィと出会う前に何が起きたかを、すっかり忘れていた。

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