××夫婦、溺愛のなれそめ
パソコンを起動している間、ふと気づく。誰かが私を見ている。
ひそひそと囁く声。何を言っているのだろうと耳をすませながら顔を上げる。
すると、顔を寄せ合って何かを話していたような女性社員三人がぱっと散らばった。その一瞬前、彼女たちの視線は確かに私の方に集まっていた。
後ろを振り返るけど、そこには誰もいない。ただ製品のポスターが飾られた壁があるだけだった。
私、見られてた? なんで?
こそっとバッグからコンパクトミラーを取り出し、メイクを確認する。どこも崩れていない。
ブラウスのボタンが互い違いになっているわけでもなし、スカートのチャックが開いているわけでもない。
いつも通りの私だ。どうして彼女たちの視線を集め、こそこそ言われなきゃならないのか。
不思議で不快な思いを飲み込み、仕事を始めようとした。そのとき。
「おはよう──あ」
始業時間ぎりぎりで入ってきた部長が、私に視線を止めた。
早川部長は三十四歳。成長期に筋肉をつけすぎて背が伸びなかったという残念な人。背丈は私と変わらないくらいだけど、顔はまあ上の下くらい、かな。
彼は私の後ろを通り、自分の席へと向かう。いつもそうして端っこを歩いていくのだけど、今日に限って私の横で立ち止まった。