××夫婦、溺愛のなれそめ
「中岡、よく来てくれたな。今後のこと、いつでも相談に乗るから」
しみじみと、私の顔を見てそんなことを言う。座ったまま見上げた私は、首を傾げてしまった。
今後のことで相談に乗ってくれる? って、なんで。
「相当ショックだっただろう。退職届はとっくに出してしまったけど、撤回という手もあるから……」
うんたらかんたら。
親切そうな部長の顔を見ていて、ハッと気づいた。
そうだ、私、元カレと別れたんだった。そのことを既にみんなが知っている。彼自身で拡散したに違いない。
あの男……黙っていればいいものを。いったいどういう言い方で拡散したのか。
おそらく、いや絶対、自分が悪者になるような言い方はしていないだろう。
レヴィの笑顔で鎮火していた怒りが再び燃え上がる。
どれだけ私に恥をかかせれば気が済むわけ?
女性社員のいやらしい視線の意味がわかった。彼女たちは私を嘲笑していたんだ。
そりゃそうよね。栄転する彼氏についていく、年内には結婚すると言い降らし、彼女たちの嫉妬を集めてしまったのは私自身の罪だもの。そこは仕方ない。
だけど、面白くない。誰も彼も、気の毒そうな顔をしておいて、腹の中では爆笑しているに違いない。