××夫婦、溺愛のなれそめ
どうせあと少しで退職なんだもの、何言われたって構わない。
そう自分に言い聞かせ、黙々とパソコンに向かう。
月末の会議に必要な資料も作っておかないと。その会議はもう有休消化期間に入っているから、自分は参加しない。けど、他の部署から来る予定の後任者が、赴任していきなりこんなものを作れって言われたら困るだろう。
周りのひそひそ言う声は無視し、作業に没頭した。資料が出来上がり、コピー室に行けたのは昼休憩の二十分前。
もちろん自分のフロアにもコピー機はあるのだけど、たくさん部数を刷るときはコピー室の方が便利。
狭い空間に高機能印刷機や業務用パンチやホッチキスがあるそこは、幸い誰もいなかった。
ふうとため息をつき、コピー機に原稿をセットする。気にしないようにしていることに疲れたわ。
背後の印刷機にもたれかかり、次々に吐き出される資料をぼーっと見ていると、不意に次の客が現れた。
「あら、噂の中岡莉子じゃない」
そう言ったのは、動機の由香。細い髪を短く切ったショートヘアがよく似合っている。
ウェーブがかかった髪をハーフアップにし、メイクもばっちりでスカートを履いた私とは対照的。彼女はすっきりした顔立ちを活かしたナチュラルメイクをし、ストライプのシャツと細身のパンツを着こなしていた。