××夫婦、溺愛のなれそめ

「噂のって……もしかして、そっちまで婚約破棄の話が回ってるの?」

由香は容器の企画、デザインを担当する課で、別のフロアにいる。

「まあね。本当なの?」

彼女は私がもたれていない印刷機に原稿をセットしながら聞いてきた。

「うん。でも平気」

「平気なわけないでしょ。マンション解約しちゃって、退職も決まってるのに」

同期の由香とは他の社員より一緒にランチしたりして、よく喋っていた。由香はさばさばしていて、他の人より話しやすいから。

他の女性社員は、正直面倒臭い。変な派閥に巻き込まれるのも嫌だし、愚痴や悪口を聞かされるのも御免だ。

それなのに、結婚が決まった時、頭がお花畑になっちゃったんだよなー。そんな時にべらべら自分のことを話すものじゃないってことがわかったよ。

正直、人の幸せなのろけ話なんて、聞いていて楽しいものじゃなかっただろう。

口先でお祝いを述べていても、その胸の中には嫉妬と羨望が入り混じり、なかなか飲み込めないぱさぱさの栗きんとんを食べさせられた気分になる。私だって、昔からそうだもの。

「まあ……大丈夫。行くところは決まっているから」

今朝までの教訓を生かして、次の結婚がもう決まっていることは言わないでおいた。

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