××夫婦、溺愛のなれそめ

トイレに行ってから仕事に戻ろう。

午後の仕事が始まる十分前に、どっこいしょと腰を上げた。本当に口から「どっこいしょ」と滑り出た。私も落ちぶれたものだ。

でも、とぼとぼとしてなんてやらない。背筋を伸ばし、しっかりした足取りでトイレに向かう。

個室は全部空いていた。一番奥に入り、カギをかけた。用を済ませ、さて出ようかというところで足音が近づいてきた。

もう、あと五分で午後の仕事が始まるのにゆっくりしてるのね。

なんとなく出ていきづらく、後から来た彼女たちがいなくなるのを待っていると、きゃっきゃと話し声が聞こえた。

化粧直しなら別のところでやりなさいよ。ここは用を足すところなのに。イライラするけど、前は私も大きな鏡があるという理由でトイレで化粧直してたっけ。

「でもさー、マジ受けるよねリコたん」

リコたん? その言葉で凍り付いた。たぶん、私のことだ。トマトに含まれるリコピンと聞き間違えたかと思ったけど、リコピンは『マジ受ける』行動なんてしない。

「あれだけ幸せアピールしといて、あっさりふられてやんの」

「私だってやだよ、あんな性悪女」

心底楽しそうな声がトイレ中に響く。

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