××夫婦、溺愛のなれそめ
出ていって、「本当にそう思ってる?」そう聞けばいいのに、体が動かない。
由香は本当にそう思っている。それは確信に近かった。
彼女は長年付き合っている彼氏がいるものの、なかなかプロポーズされないという悩みを抱えている。
私はそれを知っていながら、自分の話ばかり自慢げに彼女にしていた。そういうつもりはなかったにしても、彼女にはそう聞こえていただろう。
由香が用を済ませて出ていく足音がしても、金縛りにあったように体が動かない。
バカだなあ、私。もっと人の立場に立って行動するべきだった。
もわんと視界がにじんだ。
私、泣くの? こんなことで?
別にいいじゃない。彼女たちが私を幸せにしてくれるわけじゃない。私の人生に関係のない人たちにどう思われたっていい。
そう思って、今までやってきたじゃない……。
呆然としていると、荷物カゴに置いておいたバッグが震えた。その中から携帯を取り出すと、レヴィからメッセージが届いていた。慌てて目をこする。
『愛する莉子へ。仕事は順調に終わりそう? 午後六時にそちらの会社に迎えに行こうと思うけど、どうかな?』
そんなメッセージを見ただけで、余計に涙腺が緩んだ。
この人は、この人だけは、私を必要としてくれている。
例えそれが、グループから追い出されないための道具として、でも。