××夫婦、溺愛のなれそめ
『大丈夫。なんなら五時に仕事は終わるから、もっと早くても大丈夫』
絶対に終わらせる。だから早く迎えに来て。助けて、レヴィ。
そんな願いが聞こえたかのように、すぐ既読のマークが付いた。そして、返信。
『僕も早く会いたいけど、こちらの都合で六時になりそうなんだ。なるべく早く行けるように努力するよ』
文面を呼んでいると、少し落胆した。でも、心は格段に落ち着きを取り戻している。
深呼吸して、返事を送った。
『わかった。気をつけて来てね。午後もがんばろうね』
既読のマークが付いた。そのあとで、笑顔でうなずいているクマのスタンプが届いた。
この目が離れたマヌケな顔のクマ、見覚えがある。そうだ、浅岡グループの保険会社のマスコットキャラだ。
なにこれ、可愛い。
「ありがとう……レヴィ」
さっきまで泣きそうだったのに、マヌケなクマスタンプを見たら緊張がほぐれた。
さあ、行きましょうか。私はどうせいなくなる人間だもの。あの人たちとも二度と会わなくなる。何も気にしなくていい。
私はすっと立ち上がり、バッグを肩にかけて個室を出た。
午後も厚顔無恥を貫いて、仕事をしてやろう。そう決めて、さっさと自分のフロアに向かった。