××夫婦、溺愛のなれそめ
『お互い、本当に愛せる人を探そう。じゃあ、これきりだ。さようなら』
お互い、ってことはあなただって私のことが本当に好きじゃなかったのね。それに気づいて、このまま結婚はできないと思ったの?
じゃあどうして婚約なんてしたの。今さらそんな小学生みたいなこと言うなんてどうかしている。条件が良ければ、それでいいじゃない。
たしかに私はセレブ出身じゃない。庶民の出だけど、それは最初から彼に伝えてある。自力のみで有名大学を出て、有名企業に就職して、それなりにキャリアも積んできた。
それだけじゃダメなの? 条件の良い男性に似合う女性になるため、容姿には常に気を遣っていたし、いつも一歩引いて彼をサポートしてきた。しゃしゃり出たことはないし、反抗したこともない。従順で物わかりの良いやつと思われていたはずなのに……。
いったい自分の何が悪かったのか。考えれば考えるほど、腹が立つばかり。
どんな理由であれ、一方的に婚約を破棄して海外へ高飛びするなんて。人間のすることじゃない。
「あああああっ!」
怒りを発散させるように大きな声を出した。頭皮をかきむしれば、髪がもしゃもしゃに乱れる。通行人が怪訝な顔で私から足早に遠ざかった。
もういいや。あんなやつ、もう知らない。それより考えなければいけないのは、今後の生活のこと。