××夫婦、溺愛のなれそめ
「よし。じゃあ、婚姻届を持ってこい。俺が瑛士側の証人になる」
会長がそう言うと、レヴィがこくりとうなずき、胸ポケットから例の婚姻届を出す。
「これ、役所に出せるのか?」
「大丈夫だそうだよ」
もうそのギャグいらないです、会長。
レヴィも飽きたのか、冷静な顔で返答した。
「ああ、私とした事が、印鑑を忘れた。まあいいか。押して、出しておけばいいんだろ?」
「押せたら返してほしい。二人で提出してくるから」
「いや、たしかに結婚したということを知りたいからな。こっちでやっておくよ」
「僕たちが偽装結婚するとでも言うんですか」
レヴィの反論にドキッとした。会長は、私たちの仲を疑って、婚姻届を第三者に出させようとしている?
「言われたくなきゃ、素直に従え。仕事をひとつ減らしてやるんだから」
にっと笑って、会長はそれを自分のポケットにしまってしまった。
二人の身元を確認できる書類があれば、第三者でも婚姻届の提出はできると、結婚雑誌で読んだ気がする。
それにしたって強引だ。
だけど私もレヴィもそれ以上の抵抗はできなかった。間に合わせの結婚ということを、知られたくなかったから。
こうして、会長との顔合わせは終わった。
婚姻届、自分で出したかったな。レヴィの本音はどうだろう。
帰りの車でレヴィはあまり話さず、私もそのことは話題に出さなかった。