××夫婦、溺愛のなれそめ
問題一、結婚して主婦になる気満々だった私は、既に職場に退職届を出してしまった。つまり今月末で私は無職。
問題二、彼を追いかけてNYに行く予定だったので、賃貸マンションを解約。次の借り手は決まってしまっているので、退居するしかない。期限はあと半月。
問題三、周囲に結婚をすると公言してしまった。このままじゃ社内中の笑い物。
問題四、自己投資しすぎたため、預金残高が少ない。
「こんなはずじゃ……」
住むところはなんとかなる。退職金で家具付きのマンスリーマンションでも借りればいい。けれどその後の生活が心もとない。
「これ、本当に売れるのかな」
婚約指輪を見て思う。裏側には彼と私のイニシャルが彫ってある。これ、欲しい人いるのかな。いや、解体して部品を使うのか。
ふううと深いため息が出た。
もう、考えるのも面倒臭い……。
思考することすら放棄して、憎らしいほど晴れた空を見上げる。すると、私の目の前に一台の白い車が音もなく停車した。
やけに大きなボンネット部分。ミラーの手前に黄色の三角の中に馬が描かれたマークが。車に詳しくない私でも知っている、イタリアの高級車だ。
運転席のドアが開き、赤いシートから運転手が降り立つ。その人物に、私の虚ろな視線が焦点を結んだ。