××夫婦、溺愛のなれそめ
その後。
火曜から金曜まで、後任者につつがなく引継ぎをした私は、ついに退職の日を迎えた。
「じゃあ、あとはよろしくね」
後輩の男の子に頼み、五時になるなりバッグをつかむ。
あれから、私と女子社員たちとの距離は縮むことがなかった。由香からはしつこくレヴィの正体を探ろとするメールが来たけど、一切無視した。
女子社員は誰も私の後任をやりたがらなかったのだろう。火曜の昼過ぎに現れたのは、やる気のなさそうな男性社員だった。
別に構わなかった。真剣に引継ぎをせずに困るのは私じゃない。
「お疲れ様でした。お世話になりました」
「お、おう、もうそんな時間か」
今まで、寿退社する女性には最後の勤務日に誰かが花束を用意し、送別会の段取りを整えたものだ。
でも私が挨拶するのは直属の上司である部長だけ。彼のデスクに形ばかり、皆に配れるお菓子が入った箱を置くと、返事も聞かないうちにさっと踵を返し、真っ直ぐにオフィスを後にする。
たまーに、誰かが餞別をくれるのを期待しているのか、いつまでも座っている退職者を見たことがあるけど、私はあんな無様なことはするまい。