××夫婦、溺愛のなれそめ
その人物はダークブラウンのスーツを纏った長身の若い男だった。明るく黄色がかった金茶色の髪に、同じ色だけど縁がグリーンになったヘーゼルの瞳。
──まるで、王子様だ──。
白馬ではなく外車だけど、彼はまるでおとぎの国から抜け出てきたよう。
すらりとした長身の王子様が、こちらに向かって優雅に歩みを進める。不躾だとは思いながら、彼から目線を外すことはもう不可能だった。
ヘーゼルの瞳が私を捉える。そして、彫刻のような顔についている形の良い唇が言葉を紡いだ。
「どうしたんですか、お嬢さん。悲しい顔をして」
右と左を交互に見る。けれど、私以外には誰もいない。
「私ですか?」
自分を指さすと、王子様はこくりと小さくうなずいた。この王子様、日本人離れした顔立ちだけど、日本語を話すのね。
「……運に見放されたとでも言いましょうか」
ついさっきまで、追い風が吹いていたように思えた私の人生。けれど一瞬で逆風にさらされることになってしまった。
「恋人に捨てられました。彼だけじゃない。全部失いました」
住むところも、仕事も、人の信用も。からからになった喉から、乾いた笑い声が出た。
どうして私、初対面の王子様にこんなことを言っているんだろう。バカみたい。