××夫婦、溺愛のなれそめ
私の退職日なんて、記憶に残すほどのものじゃないし、誕生日はもう終わっているし、クリスマスでもない。
首を傾げると、レヴィは私の左手を取って、その甲に唇を寄せた。
ビックリして声を失うと、彼はピアノのような優しい響きの声で答える。
「今日、連絡があったんだ。父が僕たちの婚姻届を提出したとね」
「ということは……」
「僕たちは今日、正式に夫婦になったんだよ」
そう言えば、彼のお父様が婚姻届を代理の人に出させるって言ってたけど、それが今日だったんだ。ということは、今日は私たちの……。
「結婚記念日!」
「そういうこと」
そうだったのか。だからこんなお店に連れてきて、ピアノまで弾いてくれたんだ。
私たち、戸籍上でも夫婦になったのね。
じーんと熱い胸を押さえていると、レヴィが運ばれてきたコーヒーを一口すすり、次の話を始めた。
「今日、莉子のご両親にご挨拶してきたよ」
「えっ、うそ! どうして誘ってくれなかったの?」
「だって莉子、仕事中だっただろ」
そりゃあそうだけど。契約結婚の相手の両親に単身で会いに行くなんて、どんな猛者よ。