××夫婦、溺愛のなれそめ
土日に仲良くお母さんと買い物をしている子供を見て、どれだけ羨ましく思ったか。
黙って私の話を聞いていた神藤さんは、じっとこちらを見て言った。
「……つまり、リベンジというわけですか。自分の子供時代に満足していないから、自身の子供には同じ思いはさせない、という」
リベンジ。そう言われるとちょっと……重いって言うか、人聞きが悪いって言うか。
そんなつもり、なかった。自分の人生のリベンジのために、セレブと結婚したかったなんて。他人に言われて初めて、そうなのかもしれないと気づいた。
「あなたがずっと家にいるとなると、じゅうぶんな収入のある夫が必要。だからレヴィ様を選んだというわけですね」
すっと神藤さんの声の温度が下がった気がした。その目は、メガネのレンズに阻まれてよく見えない。
「選んだわけじゃない。レヴィとはたまたま出会えたの」
「そうですか」
「それに、今は彼のこと、本当に……」
言い訳をする子供のような口調になりつつある私の横で、お鍋が噴きこぼれた。
「わあっ」
慌てる私を押しのけ、神藤さんが火を小さくする。
「慌てると、怪我をします」
彼は冷静に、台ふきでコンロに噴きこぼれた水分を拭った。