××夫婦、溺愛のなれそめ
「別に私は、あなたの思惑はどうだっていいのです」
汚れた台ふきを洗いながら、彼は言う。その目が、不意に私を射抜いた。
「ただ、こうなったからには絶対に幸せになっていただかなければ困ります。絶対に、レヴィ様を裏切ったりしないでください。いいですね」
『絶対に』を二回も使って自分の言葉を強調する神藤さん。
「わかってる」
私だって、幸せになりたい。
小さい頃から、ただそれだけを思ってきた。
大丈夫。私がレヴィと結婚することを決めたのは、たしかに条件が最高だったから。
だけど、今はそれだけじゃない。私は、彼を……。
気まずくなった台所に、不意にインターホンの音が響いた。レヴィが帰ってきた。
私は神藤さんから逃げるように廊下を走り、ドアを開けた。
「ただいま、莉子。今日は意外に早く終わったんだ。神藤の落語、どうだった?」
今にもくすくすと笑いだしそうなレヴィ。
「まだ……落語は聞いてないの。二人で料理を」
「そうなんだ。それは楽しみだな。僕も暇があったら教えてもらわなくちゃ。今時料理ができない男なんて格好悪いからね」
早めに仕事を終えて帰ってきたレヴィは上機嫌でネクタイを外しながら部屋の中へ。