××夫婦、溺愛のなれそめ
『まだだけど』
「お弁当持ってきたの。今会社の前にいて……。あの、渡すだけでいいから、少し会えるかな」
社員でもないのに勝手にオフィスに入っていくわけにはいかない。
と言って、受付に預けるわけにもいかない。いきなりCEOにお弁当渡してって言ったって、不審者扱いされて門前払いを食らうのがオチだろう。
控えめに、けれど明るく言ってみたつもりだけど、レヴィからの返事はすぐにはなかった。
一瞬の沈黙が落ち、胸に不安と後悔が巻き起こる。
やっぱり、いきなり職場に来たりしたら迷惑だったのかな……。
しゅんとしかけると、電話の向こうからやっと短い返事が。
『今すぐ行く』
ぷつっと通話が途切れた。携帯を耳から離し、緊張しながらビルを眺める。
嫌がられていたらどうしよう。会った瞬間に渋い顔をされたら……。
すぐ行くって言ってくれたけど、こんなに大きなビルだもの。入口まで降りてくるには時間がかかるよね。
ランチ時に社外に出ていく人たちを避けるように道の端に寄ろうとしたとき、声がかけられた。
「莉子!」
「あ……」
回転ドアから出てきたのは、息を切らせているレヴィだった。朝は完ぺきに整っていた前髪が、ひとふさぴょこんと上に上がってしまっている。