俺様社長はウブな許婚を愛しすぎる
「仕方ないだろ? 本当のことなんだから」

ふわりと笑う彼に居たたまれなくなったその時だった。

「ブハッ……! だめだ、俺もう限界……っ!」

「ちょっ、ちょっと健太郎さん!」

薄い壁を挟んだ隣の席から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。

それは和臣さんも同じで、顔をしかめる。


「アハハッ! だって灯里、お義兄さんが『最高に可愛いな』って言ったんだぞ? これが笑わずにいられるか!」

「お兄ちゃんも一生懸命なんですよ! 笑ったらだめです!」

そう言っているくせに、灯里ちゃんの声も震えている。

筒抜けで丸聞こえ。そしてすぐにわかった。隣の席にいるのは灯里ちゃん夫妻だって。

どうして灯里ちゃんたちがここにいるのか分からないけれど、嫌な予感しかしない。

その予感はすぐに的中し、和臣さんは勢いよく立ち上がった。

「あ、和臣さん……!」

すぐに私も席を立ち彼の後を追う。

和臣さんは真っ直ぐ隣の席へ向かい、そこにいた灯里ちゃんと、灯里ちゃんの旦那様である健太郎さんを前に、わなわなと身体を震えさせた。
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