俺様社長はウブな許婚を愛しすぎる
「あっ! 千和さん、噂をすればです!! 情けは無用ですよ!」

玄関ドアが開く音がした途端、灯里ちゃんは私の声に被せ注意を促してきた。

玄関の方を見ると、そこには出勤してきた和臣さんと田中さんの姿があった。

「あっ……」

私を見ると足を止め、実に情けない顔になり、声を漏らす和臣さん。

私はすぐに視線を落とすも、心臓はバクバクいっている。

同じ会社に勤めているんだもの、こうやって会うのは当たり前。

どうしよう、気まずくて話せないけれどでもここは会社だもの。挨拶はするべきだよね?


迷いに迷っていると、隣に立つ灯里ちゃんはツンとした声で「おはようございます」と言った。

「……おはようございます」

灯里ちゃんに続いて私も挨拶をし、頭を下げた。

これが今の私の精いっぱいだ。これ以上はなにを話したらいいのかわからない。

視線を下げたままでいると、田中さんは深いため息を零した。
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